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自律型走行車:スローモーションのように進む技術革命

10/10/2024 - Matthias Poppel

自律型走行車はAIを用いた自動運転技術における究極的な目標と考えられていますが、現実には複雑な要件が立ちはだかっています。近年話題の自動運転ロボタクシーは、この複雑な要件によって、実用化に向けて薄氷の上をゆっくりと進まざるを得ない状況に置かれています。現在、自動運転の技術はどこまで進んでいるのでしょうか。薄く滑りやすい氷の向こう側を見てみましょう。

ロボタクシーを運営するGM傘下のクルーズ社は、昨年サンフランシスコで自動運転タクシーの事業を開始しましたが、交通事故によって運行許可が停止されました。また、イーロン・マスクが率いるテスラ社は、ワーナー・ブラザーズの撮影スタジオを借り切ってサイバーキャブをお披露目しましたが、賛否両論の反応を呼びました。ワーナー・ブラザース・スタジオの管理された環境以外での使用に疑問を呈する声も多く、公道での走行はいつ認可されるのか、あらかじめ決められたルート以外での実走行にどう対応するのか、といった懸念が持ち上がりました。さらに、インターネット上には、クルーズ社やウェイモ社などの自動運転車が、一般的な交通障害物の回避に失敗する様子を映した動画が多く公開されています。公平を期すために言うと、ロボタクシーの製造は非常に難しく、社会からは非常に厳しい目で見られています。

自律型走行車と人の運転する乗用車が、まったく同じ状況で事故を起こした場合を想像してみてください。たとえ、人の運転する車がどれだけ同じ事故を起こしていたとしても、多くの人々は事故を起こした自律型走行車に対して「本格運用するには技術的に未成熟だ」といった、自動運転にネガティブな印象を持つ傾向が強いのではないでしょうか。

ですが、自動運転車の革命は起こらない、あるいは遠い将来にしか起こらないと決めつけるのは間違いです。交通量が多く混雑した市街地よりもはるかに導入しやすく、自動運転が真価を発揮している環境は数多くあります。タクシー業界という監視の厳しい分野での成功に至っていないだけで、自動運転車はすでに成功を収めつつあるのです。

オートパイロットモードが多くの産業分野で効果を発揮

イーロン・マスクがテスラの完全自動運転モードに対して、多少間違ってはいるものの大胆にも流用した「オートパイロット」という言葉が、航空業界から来ているのは偶然ではありません。市街地の交通と比べれば、空路は穏やかで、明確に定義され、管理された環境であり、自動運転車の技術が真価を発揮するのはまさにこの領域です。

とは言え、地上から遠く離れた上空まで行かなくても、自動運転車が「離陸準備完了」の状態にあること、むしろ車両の運行をよりスムーズかつ安全に、そしてより低コストで行える準備が整っていることを証明できる環境を見つけることはできます。倉庫内の自律型フォークリフト、自動運転の電車や地下鉄、トンネル内で貨物を運ぶ自律型トロリー、貨物港の自律型大型クレーン、そして物流拠点間の一般的な高速道路ルートを走る自動運転の長距離トラック輸送などを思い浮かべてみてください。

高いポテンシャルに伴う高い要求

このような環境では、車両の運行や交通は厳しく管理される傾向にあり、一般車両から完全に隔離されている場合も少なくありません。そのためオペレーターは、子供が突然道路に飛び出してきたり、スマートフォンに夢中の歩行者が対向車に気付かず進路を横切ったりといった心配の必要がありません。

かといって、課題が無いわけではありません。ただし、これらの課題は主に技術的なものです。現代の自動車は、いうなれば、基本的に車輪の付いたデータセンターです。ADAS(先進運転支援システム)、車載エンターテイメント、ダッシュカムシステムからEV充電を制御するコンピューターに至るまで、数多くのITシステムが組み合わさっています。したがって、これらITシステムに利用されるコンピューティングコンポーネントやストレージコンポーネントは、過酷な気象条件、極端な高温または低温環境、悪路からの衝撃に耐えられなければなりません。加えて、これらのコンポーネントには安全要件を考慮した設計が不可欠で、特定の機械、電気やITコンポーネントが故障した場合に顧客が危険にさらされる可能性がある業界においてはなおさらです。

このため、これらのコンポーネントは、4輪のブレーキが同時に故障するなど、自動車の危険性の中でも最高レベルの危険までを考慮した、非常に厳格な道路運送車両の機能安全基準を満たす必要があります。これらの仕様では、ほとんどのデータセンターサーバーが耐えられないような温度範囲においてコンポーネントが動作することが求められます。これは、コンピューティングコンポーネントだけの話でなく、リアルタイムデータ管理において非常に重要な役割を担う「車輪の付いた自律型データセンター」であるストレージコンポーネントにも当てはまります。と同時に、従来のデータセンターでは決して遭遇しないもう1つの課題もあります。それは、現代の自動車を確実かつ安全に動作させるため、無線通信を介したアップデート機能を提供できる必要があるということです。

さらに、自動車業界のサプライヤーは、製品の技術仕様だけでなく、製造工程レベルでも厳しい基準を満たす必要があります。自動車業界では、非常に厳しい生産部品承認プロセス(PPAP)を確立しており、サプライヤーは製造能力、品質管理、生産の一貫性に関する高い基準を満たしているかを評価します。

これらのプロセスは、超高速で移動する車両用に設計された機械部品や電気部品だけでなく、コンピューティングコンポーネントやストレージコンポーネントにも適用されます。すなわち、信頼性の高いコンピューティングとストレージは、現代の自動車の中核をなす機能なのです。一貫性があり、スムーズで安全、今後ますますAIの活用が進み、そして最終的には自律的な走行の実現に欠かすことのできない要素です。

自律型走行車への道を開く

ロボタクシーなどの自律型走行車は自動運転車の中でも特に注目される存在であり、そのため最も激しく議論されています。しかし、ロボタクシーは、交通量の多い市街地という複雑で混沌とした環境で運行しなければならないことから、例外的な存在と言えます。より管理された環境に関して言えば、問題は自動運転車が登場するかどうかではなく、いつ登場するかという点だけです。だからこそ、技術開発者、製造業者、規制当局が協力して、自動運転車を薄氷を踏むような危うい状況から脱却させ、道路、線路、港湾、その他の最先端の環境において、このモビリティ革命のスムーズな前進を推し進める必要があります。そして、自律型走行車がタクシー業界で活躍する日も遠くはないでしょう。